SCENE2 病院組織を理解しよう! 看護部の位置づけ、自分の立ち位置、組織のあり方

 病院の組織は複雑で特殊である。その理由に、医師からの指示という診療上の指示命令系統(図1)、上司からの指示という病院経営上の組織としての指示命令系統(図2)がある。普通の会社組織では、部門を超えて直接指示が来ることはまれであるが、病院の現場では部門を飛び越えて臨床上の指示が飛び交う。管理者は頭でわかっていたとしても、現場のスタッフは仕事上そんな指示命令系統を意識することがない。これが病院の管理を難しくしている部分でもある。例えば、医師が研究のための手伝いを師長に依頼するかもしれない。これは、診療上の指示の延長でしょうか?大抵は、今後の業務のこともあるので、手伝ってしまうのかもしれない。しかし、本来は師長の仕事だろうか?このように指示命令系統の複雑さは、管理職はともかくとして一職員が理解するには難しい。このような指示命令を整理していくのも管理者の仕事なのである。

 指示命令系統と同時に重要なことは、組織とはどのようにあるべきなのであろうか。運命共同体という言葉があるが、実は、この共同体という言葉が問題を秘めている。

 奈須は、組織と指示命令系統の在り方について考えるようになってきた。病院の経営会議や師長会で決められたことを病棟スタッフに伝えているが、今ひとつみんなが理解していない気がする。確かに、病棟カンファレンスの時は、全員理解していたような気がした。しかし、とても理解した後の行動とは思えず、そのため今ひとつ腑に落ちない。このことについて何が原因であるかも分からない。伝達の仕方が悪いのか、それとも自分が管理者としての素質がないのか、あるいは組織がいけないのかといったことを考えるようになっている。そこで、このもやもやを解消するために、残業時間帯に病棟で薬剤管理指導の書類を書いている岡田に質問してみた。

奈須:岡田さん、質問してもいいですか?

岡田:いいよ。深刻な顔をしてなんだい。

奈須:最近、病院で決めたことを私の病棟の職員が守っていないことが気になるの。

岡田:なんだ、そんなことか。

奈須:岡田さん、そんなことって、言い方ないでしょ。私は悩んでるんです。

岡田:事務でも薬剤部でもそんな感じだよ。全員が病院が決めたことを守っているかというとそんなことないよ。守れるようになるまで、少し時間がかかるんだ。

奈須:なぜ、そうなるんですか?

岡田:病院は、飛び交う情報が多すぎる。人間は、情報が多くなりすぎると覚えていられなくなる。記憶も優先順位をつけるようになるのかな。病院で決めたことの指示命令に関しては忘れるけど、診療上の指示は忘れないだろ?これって、医療従事者が診療は重要と思っているからだよ。もっとも診療上の指示を忘れれば、インシデントレポートだけどね。(笑)

奈須:そういう意味では、情報もある程度制限をしないといけないという事と記憶に残る伝え方が必要なのね。

岡田:そうだね。記憶に残る伝え方がいいかもね。そういえば、ある病院では、グループウェア(GW)を導入したら情報の伝わり方が良くなったと言っていた。でも、数年したら今度は、伝わらなくなってしまったといっていた。なんでだと思う?

奈須:分からないなぁ。

岡田:職員が便利だとわかり、どんな些細なことでもGWで伝達するようになった。そうなると1日に30件とか40件もの連絡が、GWで伝達されるようになった。そうすると確認したはずの情報について、覚えていないということがすごく多くなったようだよ。これからもわかるように、人間が1日に処理できる情報量は決まっているんじゃないかな。

奈須:なるほどね。参考になります。少しすっきりしました。それともう一つ質問いいですか?

岡田:いいよ。なに?

―奈須は、組織のあるべき姿について質問する。―

奈須:組織ってどうあるべきですか?

岡田:難しいこと聞くね。組織として、結果を出せればいいんじゃないの。

奈須:結果ってなんですか?

岡田:結果とは、看護部や病棟の目標があるよね。それが達成できればいいんじゃない。

奈須:目標が達成できる組織とはどういう組織ですか。

岡田:目標が達成できる組織とは、団結力が強く、目的を達成しようとする組織だよ。奈須は、病院のバレーボールチームのキャプテンだろ?昨年、近隣の病院と試合をした時に、勝ちたいって頑張っていたじゃないか。その時の感触ってどうだった?団結力が強く、仕事が終わってからもみんな練習していたじゃないか。自発的に練習し、特に指示しなくてもみんな同じ方向に向かっていたよね。

奈須:なるほど、そんな感覚ね。スポーツだと勝つか負けるか、だから分かりやすいのね。仕事は、複雑で目標や目的が抽象的になりがちなのね。

岡田:そうだよ。だから、目標や目的を具体化し、病棟のみんなに理解してもらう必要があるんだよ。目標や目的がはっきりしないと働く人は、居心地のよい組織を作ろうとするからよくないんだ。

奈須:居心地の良い組織じゃだめなの?

岡田:働く環境が居心地良いということは、職員の定着につながるからいいんだよ。悪くはない。

奈須:さっき、ダメって言ったじゃない。

岡田:職場って、居心地が一番じゃないでしょ。仕事が一番であるはずだ。組織がダメになる時は、仕事より居心地が優先される。つまり、組織が自己中心になった状態だね。自己中心の人は、対峙するひとからすると嫌でしょ。患者さんは、サービスという医療サービスを受ける側なので、組織が自己中心だと嫌な感じを受けるんだ。これが俗に言う、組織の甘えの体質だね。

奈須:なるほどね。

岡田:因みに、組織は“機能体”と“共同体”と分類されるそうだよ。知ってる?

―奈須は、岡田の話に真剣に聞き入る。―

奈須:わからないから、教えてください。

岡田:“機能体”と“共同体”の違いは、目的の違いにあるんだよ。機能体は、自分たちの目的達成のために存在する組織だよ。共同体は、組織に属している人が心地よいということを目的とするんだ。これって、大きな違いでしょ。本当は、共同体という言葉は怖いんだ。

奈須:なるほどね。先ほど、説明てくれた居心地の良い状態とは、一歩間違えると共同体化して、組織が決められた目標を達成しようとしなくなる心配があるということなのね。参考になりました。

 病院は、働く人が多く、人材と情報の管理が中心となります。この管理の良し悪しで、医療の質が左右されます。目標を明確化し伝えること自発的にスタッフが動き、業務効率も上がります。また、スタッフは、必要な情報がきちんと伝わることで判断することが可能となるため、人材と情報の管理が、病院の経営に最も影響を与えることは間違いありません。